2005年09月04日

寡黙な男

tadanobu.gif
【ただのぶ りへい】

 元浪人の忠信利平は剣の達人で、その腕を駄右衛門に見込まれ、西国のあちこちを荒し回る泥棒です。腕っぷしは強く、凄みのある人物ですが、「お家乗っ取り」を企む家臣の魔手から、千寿姫とその婚約者に扮したニセ信田小太郎(=実は弁天小僧)を救ったり、お金を盗んでボコボコにされた赤星十三郎の自殺を止めたりと、寡黙ながらも正義感が強く、優しい人物として描かれています。

 年齢はおそらく20代前半〜半ばぐらいですかね?若くて享楽的な弁天小僧や南郷とは違って、浮ついたところがないし、弁天小僧と千寿姫のデートの現場を目撃しても、「事情」を察知して邪魔しない「大人の配慮」があります。目立たないけれど、落ち着いた魅力のある人物です。

 モデルは日本左衛門(=浜島庄兵衛)の手下で実在した人物、忠信利兵衛と言われていますが、源義経の忠実な家臣、佐藤忠信も入っているそうです。忠信の父がかつて赤星の父の部下だったことから、赤星十三郎と忠信利平は義経と佐藤忠信のような主従関係にあります。ただし忠信の父は主家(=赤星家)の納戸金・二百両を横領した過去があり、逃亡してしまったようですが。

 「通し」の劇を見ていれば、序幕の「初瀬寺花見」「稲瀬川谷場(谷底)」の場面で、そういう人間関係が何となく分かるのですが、この人出番が異常に少ないのです。おかげで「五人男」の中で赤星十三郎の次に、存在感がありません(忠信ファンの方、ゴメンなさい)。

 『白浪五人男』のダイジェスト版『弁天娘女男白浪』なんて、「(稲瀬川)勢揃い」の場面しか登場しません。だからこの場面だけで、この人を理解できる人はかなりの「通」だと思います。

 とかなんとか言って、実は「白浪五人男」の芝居は2回しか見ていない*(実は3回見ていたようです)ので、私もエラソーなこと言えた立場じゃないのですが。私なんかよりも、常連客のオバ(ァ)ちゃん達の方が、よっぽど歌舞伎に詳しいです。

 「(稲瀬川)勢揃い」のツラネ(=連ね)で、それぞれ自分のこれまでの経歴などを語っているのですが、そのセリフで登場人物の育ってきた環境や、性格がなんとなく見えてくるから、不思議ですね。以下は忠信利平の部分。

t_thum.gif「続いて次に控えしは、月の武蔵注1 の江戸育ち、幼児(がき)の頃から手癖が悪く、抜け参り注2からぐれ出して、旅を稼ぎに西国を廻って首尾も吉野山注3 、まぶな仕事も大峰注4 に足を止めたる奈良の京、碁打(ごうち)と云って寺寺や豪家(ごうか)へ入込み盗んだる、金が御嶽注5 の罪科は、蹴抜の塔注6 の二重三重、重なる悪事に高飛びなし、後を隠せし判官注7の御名前騙りの忠信利平」

注1 むさし:武蔵国のこと。江戸時代までは、現在の東京都〜埼玉県、神奈川県川崎市あたりを指した。

「月の武蔵」が何を示しているのか
不明なので、詳細な出生地は不明。

もしかしたら青梅か八王子 あたりかもしれません。

追記:セリフの中に月の武蔵という言葉が出てくるのは、武蔵の国では、山から出て山へ沈む月が、草原から出て草原に沈むくらい平野が広大だと言われ、和歌に武蔵野・武蔵と月という言葉一つになって詠まれている事があるからだそうです。

ー以上、さくたろう様のコメントより引用。大変ためになる書き込みありがとうございました。(2009年2月22日)

注2 ぬけめぇり(=正しくはぬけまいり):伊勢神宮への参拝「お伊勢参り」は、江戸の庶民の一大イベントだったが、まず親の承諾と(地元の)大家から手形をもらわないといけなかった。「抜け参り」とは、それらの手段を省いた不正な旅行のこと。ほとんど家出。

注3 よしのやま:桜の名所でもある奈良県の吉野山。「首尾もよし」とかけている。(忠信利平のモデルは義経の忠実な部下・佐藤忠信も入っているので)歌舞伎『義経千本桜(狐忠信)』にも登場する。

注4 おおみね:日本百名山の一つである大峰山(吉野山から紀伊の熊野までの山脈全体を指す)は、奈良県中央にあり、標高一九一五m。古くから修験道の山として知られ、山伏達の修行の場で、今でも女人禁制である。

ごうか:金持ちで、その地域で実権や勢力のある家のこと。

注5 みたけ:京都の福知山にある三岳山(みたけさん)。別名・丹波山上。
 この山には源頼光が大江山の鬼退治の前に、八合目にある蔵王権現[現・三嶽(みたけ)神社]で戦勝祈願をし、山頂から大江山を偵察したという伝説が残されていて、「見立て山」とも呼ばれている。
 偶然にも稲瀬川近くの保育園の隣が「御嶽神社」。

注6 けぬきのとう:吉野山の奥、金峰神社の裏手に存在する。源義経がこの社の屋根を蹴破って逃亡したと伝えられる。

注7 はんかん・ほうがん:人の刑罰を決める役職の人。今で言う警察官と裁判官の間の役職。
どうも判官の名前を勝手に使って、悪さをしていたらしい。

-と、思っていたら、このセリフはたてやま村歌舞伎保存会(旧 たてやま子ども歌舞伎)さまのブログによると、佐藤忠信が「義経の身替わり」をして義経を守ったという、故事から由来しているそうです。(平成19年5月6日追記) 

*後日、辞書で調べてみたら、源義経のことも指す(彼の役職が「検非違使(けびいし)の尉」=「判官」であったことに由来することから)みたいですね。

 このセリフから、武蔵国(=現在の東京都〜埼玉県、神奈川県・川崎市)出身で、幼少の頃から手癖が悪く、本人はそのつど反省はしているらしく、(その煩悩を抑えるためか)寺社参拝の旅に出たり、「女人禁制」の大峰山で修験道に励むものの、結局、泥棒稼業はやめられずに逃亡してしまう習性があるようで。どうも極端から極端へと走る傾向にあるようですね。

 これほどベタ褒めしておきながら言うのもなんですが、抜け参りの「目的」が実は「寺社参拝」ではなく、単なる「家出」や「フーゾク」(=伊勢神宮の周りにはそういう施設があったらしい)だったらどうしよう。エロ妄想大爆発の男子中学生のように、「やっぱ伊勢って、スゲェ?スゲェ?」なんて言ってる忠信利平なんて想像したくないし、もの凄くガッカリです。

 やっぱり忠信利平は、寡黙で人生の悲哀を噛み締めた人物でなくっちゃ!

-以上、私の「憶測」でした。
posted by fuji_nishi. at 15:51 | Comment(0) | TrackBack(0) | 忠信利平
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