2005年09月24日

「勢揃い」の着物の柄

 歌舞伎『白浪五人男』の「見せ場」と言えば、「浜松屋」の場面と、この「稲瀬川勢揃い」の場面でしょう。中でも「稲瀬川勢揃い」の場面は、自分の素性を順番に語っていくツラネや、五人の「役柄の個性」を象徴した華麗な衣裳が見ものです。

sira5.gif

イラストは傘の部分が大失敗です。貧弱な毒キノコみたいです。とほほ。 解説にあたり、五人男の表記は

日本駄右衛門は駄右、弁天小僧は弁天、忠信利平は忠信、赤星十三郎は赤星、南郷力丸は南郷とします。

衣裳は

da_thum.gif駄右-紫縮緬 磁石碇綱 立浪柄-むらさきちりめん じしゃくいかりたづなたつなみがら-染着付

 白浪(=盗賊)にちなむ荒波に、五人男の舵取り役(=リーダー)にふさわしい方位磁石と碇という趣向。彼の頭は月代(さかやき)の部分を剃っていないので、アフロヘアのようになっている。

ben_thum.gif弁天-紫縮緬 琵琶蛇菊柄-むらさきちりめん びわへびきくがら-染着付

 名前にちなんだ菊の花と、江の島とゆかりのある「弁財天を象徴する楽器の琵琶と、白蛇が描かれている。江の島育ちの弁天小僧らしいデザイン。

t_thum.gif忠信-紫縮緬 雲と龍柄-むらさきちりめん くもとりゅうがら-染着付

 江戸育ちにもかかわらず、西国のあちこちを荒し回る、神出鬼没の悪党ぶりを雲龍にたとえたもの。

akaju_thum.gif赤星-紫縮緬 星に鶏柄-むらさきちりめん ほしにとりがら-染着付

 武家のお小姓から盗賊になった赤星の衣裳の柄は、暁の明星にちなんだ星(北斗七星)と鶏。鶏は朝の時を告げるところから選ばれたデザイン。

nan_thum.gif南郷-紫縮緬 稲妻と雷獣柄-むらさきちりめん いなづまとらいじゅうがら-染着付

 浜育ちで船盗人上がりの南郷の衣裳は、荒くれ者ぶりをあらわす稲妻に雷獣r_thum.gif柄。雷獣の別名は「木貂(きてん)」とも言い、ツラネの「どうで終(しま)いは※木の空」とかけている。
 唯一、手拭いを首に巻いて登場しているのも、元漁師であることを象徴している。

※磔(はりつけ)の刑にされること。
<関連記事>「どうで終いは…」

 以上、参考文献をもとに記入しましたが、歌舞伎座のパンフレットの浮世絵(平成七年一月 歌舞伎座 パンフレット『松竹百年 寿 初春大歌舞伎』/歌舞伎博物館 芝居の背景-弁天娘女男白浪-島野功緒 著/P60〜P61)を見ると、駄右衛門が鶏柄の衣裳を、南郷が駄右衛門の衣裳を着ているようで、現在のデザインの衣裳に安定したのは、かなり後の事のようですね。

 弁天小僧が巳(へび)、忠信利平が辰(たつ)、赤星が酉(とり)、南郷が戊(いぬ・本当は雷獣だけど、この際)と、もしかしたら五人男の着物の柄が十二支(じゃあ駄右衛門は?駄右衛門は全方位が描かれている方位磁石ということで…)となっているのではないかと思いました。
 それから先日紹介した鎌倉シチズンネット(KCN)が運営している「e-ざ鎌倉・ITタウン」ですが、かなり情報の宝庫ですよ!そこの「鎌倉の庚申塔」という項目のページを見ると、庚申塚(塔)の彫り物に「見ざる言わざる聞かざる」で有名な三猿の他に、干支の申(さる)の次が酉(とり)ということで、朝の時を告げる(=夜通し行う信仰の儀式なので)鶏の彫り物もあるということです。案外、こういうところから着物の柄のデザインやセリフが決まっていたりして?

 最後の方の文章は私の邪推なので、あまり気にしないで下さい。
  
[参考文献]

ishou.jpg
*『歌舞伎衣裳展図録』松竹株式会社・松竹衣裳株式会社・歌舞伎座主催(1998年)

kabuki3.jpg*『季刊雑誌 歌舞伎 第三号』松竹株式会社(昭和44年1月)

9501p.jpg*平成七年一月 歌舞伎座 パンフレット『松竹百年 寿 初春大歌舞伎』

kodougu.jpg*別冊演劇界『歌舞伎入門シリーズ(4) 道具・衣裳百科』・演劇出版社(平成一六年四月)


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rekishi.jpg*『歴史読本 昭和五十五年九月号特集 大江戸怪盗伝』・新人物往来社 (昭和55年)


posted by fuji_nishi. at 19:26 | Comment(4) | TrackBack(0) | 白浪五人男
この記事へのコメント
はじめまして。歌舞伎衣裳模様絵師です。
白浪五人男専門のブログは珍しいですし
とても楽しいですね。
五人男の衣裳の模様を描いていて、いつも疑問に思っていましたが、十二支ということで納得しました。
駄右衛門が方位磁石というのも、なるほど!と思いました。
Posted by げんくろう at 2006年11月13日 15:02
げんくろう様

はじめまして。コメントありがとうございます。
げんくろう様のサイトは、私もよく存じております。歌舞伎の隈取りの種類や、着物の模様の解説など、とても参考になりました。イラストもとても可愛らしくて、素敵ですよね。

着物の柄の「十二支」のくだりは、大半は私の「憶測」ですので、「(世の中には)こういう考えの人がいるんだ」程度に軽く受け止めていただければ、幸いです。(本当のところは実は私も分かっておりません ^^;)

私自身、まだまだ歌舞伎や着物のことは知らないことだらけですので、げんくろう様には色々と教えていただきたいぐらいです。書き込みありがとうございました。
Posted by fuji_nishi. at 2006年11月13日 22:54
ぶしつけな質問で失礼いたします。白波5人男の衣装を捜していてこのページを見つけました。実は先日、地元で長年行われている歌舞伎「白波5人男」の衣装を新しく制作するにあたり、安く購入できる方法はないかと打診されました。当該呉服店を営んでおりますが、残念ながら知識がありません。ネットでは1件だけヒットしますが、補助金を使用しても現状厳しいそうです。現在は25年前の衣装をだましだましつかっているのと、寸法が13歳の中学生が演じるのにすべて大人寸法なので着付けも毎回大変だそうです。何か知恵が拝借できたらお教えいただけませんでしょうか?
Posted by 加藤哲道 at 2015年11月10日 16:44
加藤様

せっかく書き込みをしていただいたのに、お返事するのが遅くなってしまい、大変失礼いたしました。

ご質問の件ですが、お話を伺う限り予算面でも、現在使用されている衣装も限界になっていて、かなり深刻な状況ですので、出来る限りお力に添えたいとは思っております。

以前、秩父の地歌舞伎(萩平歌舞伎舞台)をされている方に聞いた話によると、「衣装」は地元に住んでいる、和裁の出来る奥様方がチームを組んで縫い上げた、みたいな話を聞いたことがあります。


おそらく白地の着物に、自分達で絵柄を描き、染め抜いて、縫い上げた、みたいな感じだったように思います。

しかし、この話を聞いたのも、今から10年ちかくも昔のことですので、記憶が大変あいまいなのですが。

もしかしたら間違っているかもしれないので、その方に久々に連絡がてら、衣装について、もう1度聞いてみます。

ご参考までに、萩 平 文 化 財 保存会 HP・ 萩平歌舞伎舞台伝承会HP のURLをお知らせ致します。

http://www.geocities.jp/hagidaira_butai/index.html

あと、今は大衆演劇の舞台衣装を手がけているお店も結構あるようですが、そういうお店に依頼するのは、やはり金額的に難しいですかね?

後日、改めてメールでご連絡致しますので、取り急失礼致します。

コメントありがとうございました。


Posted by fuji_nishi. at 2015年11月14日 19:46
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